NPO福島ダイアログ 理事長 安東量子
ダイアログは、日本語では「対話」と言われます。ダイアログ・対話は、状況がうまく進んでいるときに、その必要性が指摘されることはあまりありません。その重要性が指摘されるようになるのは、なにかうまくいかない、スムーズに物事が運ばない、そんな不具合を感じるときです。
昨今、ダイアログ・対話の大切さや必要性を指摘する声を耳にする機会が増えたように感じます。それは、私たちの暮らしている現代という時代が、多くの課題に直面しているからのように思います。少し考えて見るだけでも、急速な技術発に追いつかない社会制度、グローパリズムによる社会構造の変化、格差が大きくなる社会、世界的な気候変動と災害の多発など、10年前とは比べものにならない大きな社会課題が、暮らしに切実な問題となって浮かび上がってきています。
急速に変化する社会のなかで多発する新たな問題に対しては、社会としてどう向き合えばいいかわからないという状況が発生します。社会としてだけでなく、自分でもどう向き合えばいいのかわからない、そして、他の人がどう考えているのかもわからない。それがこの時代の私たちが現在置かれている状況ではないでしょうか。
私たちは、無数の人たちと一緒に社会のなかで暮らしています。異なる立場、暮らし、考えを持つほかの人たちと軒を接して生きる、それが社会です。社会生活を営むためには、ひとりひとりで考えるだけでなく、社会としての考えを共有していく必要があります。そこでキーになってくるのが、ダイアログ・対話です。
私たちは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故のあと、福島県内でダイアログ・対話活動を続けてきました。最初は、国際的非政府組織である国際放射線防護委員会(ICRP)が開始し、それを引き継ぐ形で2019年に国内のNPO法人が発足しました。私は、2012年からICRPのダイアログに参加し、運営の手伝いを行い、2016年からは運営責任者を務めてきました。(これまでの記録は、ETHOS IN FUKUSHIMA をご覧下さい。)
原発事故のあと、社会的に大きく混乱した難しい状況のなか、国内外の関係者で継続したダイアログを重ねてきた経験は、変動期に入ったこれからの時代にも、時代だからこそ、揺るぎない価値を発揮するものと信じています。
私たちは、ダイアログ・対話の経験と価値を伝え、また推進していくことで、これからの社会に寄与することを目指します。活動にご賛同のみなさまのご協力とご参加をお待ちしています。
2021年10月15日
執筆や講演等ご依頼は、下記メールアドレスにご連絡ください。
理事長経歴
筑波大学第二学群比較文化学類現代文化専攻 卒
2011年東京電力福島第一原子力発電所事故時、福島県いわき市在住。原子力災害からの復興をめざすETHOS IN FUKUSHIMA を設立。いわき市久之浜町末続地区で、放射線測定などの地域活動を地元行政区と協力して行う。(2020年まで)
並行して、国際放射線防護委員会が福島支援ではじめたICRPダイアログに2012年から継続して参加、運営手伝いも行う。2016年から運営責任者となり、福島ダイアログを継続的に運営する。
2019年6月NPO法人福島ダイアログ設立、理事長に就任。
また、論文執筆や国際会議などの参加を通じて、原発事故後の福島の復興の状況を国際的に伝え、経験を世界と共有することも行ってきた。
2019年2月に著書『海を撃つ』をみすず書房から出版。
■著書:
『海を撃つ 福島・広島・ベラルーシにて』(みすず書房、2019年)書評
共著『福島はあなた自身』(福島民報社、2016年)
随時 note も更新しています。
■メディア紹介:
・NHK こころの時代 選 私にとっての3.11 「福島を語る言葉を探して」初回放送日: 2021年2月28日
・論座 「結果オーライ」への道筋を探るトリチウム水の海洋放出問題
等
■論文(主なもの):
・2021 「原子力災害を語ることの難しさをどのように乗り越えるか」 ICRP年報 日本語版PDF
・「福島県いわき市末続地区における原発事故後の共有知の経験」 『保健物理』 ※2020 仏『Radioprotection』誌に掲載論文の日本語訳)
・2018 「Trust—what Connects Science to Daily Life」米 『Health Physics』誌
・2015「Measuring, discussing, and living together: lessons from 4 years in Suetsugi」 ICRP年報
■登壇等:
・2021年1月 IRPA15 招待口演 Trust – What Connects Science to Daily Life また、パネル・ディスカッション参加 Experience in Fukushima Accident – Social and Sociological Empathy
・2020年12月 ICRP 原子力事故後の復興に関する国際会議 セッション・チェア
・2019年6月 アメリカ保健物理学会 64th Annual Meeting Health Physics Society 招待口演 Connecting Science and Life with Trust
・2018年9月 アメリカ原子力学会、保健物理学会 APPLICABILITY OF RADIATION-RESPONSE MODELS TO LOW DOSEPROTECTION STANDARDS Connecting Science and Life with Trust
・2015年10月 ICRP2015 招待口演『Measuring, Discussing and Living Together – What We Learned from Four Years in Suetsugi』
・2012年4月 ふくしま応援勉強会 ふくしまの話を聞こう「チェルノブイリが生んだ「エートス」との出会い」
その他の論文・口演については、researchmap をご覧ください。